アウトサイダーキュレーター櫛野氏のこと
先日、私(奥村)の自宅に、アーツカウンシル静岡の櫛野展正(くしののぶまさ)と名乗る男性が「取材をしたい…」と訪れた。
私は、ひまわり事業団で働く傍ら画家としても活動しているが、そんな私の噂をどこからか聞きつけ、
「ぜひアトリエにお邪魔して、貴方の創作活動についてインタビューをしたい…」
ということだった。
この櫛野展正氏とは初対面であったが、私は今回の取材を通して、氏が日本のアウトサイダーアートの第一人者であることを知った。
ちなみにアウトサイダーアートとは、近年脚光を浴びているエイブルアート(障害者アート)とほぼ同義で使われることもあるが、もう少し広い意味で「美術の専門教育を受けていない者によるアート」を指すことも多い。
氏はこれまでに、広島県福山市にアウトサイダーアート専門の美術館「鞆の津ミュージアム」を設立したり、アウトサイダーアートを取り扱うギャラリー「クシノテラス」を運営したりしている。
さらに氏は、自らのことを「日本唯一のアウトサイダーキュレーター」と呼んでいる。
アウトサイダーアートならぬ、アウトサイダーキュレーターっていったい何?
それは、氏のプロフィールを読んでなんとなく理解できた。
氏は、美術の専門教育を受けてキュレーターになったのでなく、大学では障害児教育を専攻し、その後知的な障害のある人の施設で介護福祉士として16年間働き、そこで出会った障害のある人の自己表現の手段としてアート活動を取り入れる中で、アウトサイダーアートのキュレーターとしての今の評価を築いた、異色の経歴の持ち主だったのだ。
つまりキュレーターとしての本流の道(例えば美大などで美術の歴史を専門に学ぶ)を歩んだのではないので、アウトサイダーキュレーターというわけだ。
ここで櫛野展正氏の著書を少し紹介しておこう。
どちらも、障害をもつ人に留まらず、社会の周縁で表現を行うさまざまな“アウトな人”たちに焦点をあてたたいへん興味深い書籍で、中はインパクトあるアーティストによるインパクトあるアート作品の写真が満載だ。
実は、私(奥村)自身も美術の専門教育は受けておらず、独学で絵を描いていることから、広い意味でのアウトサイダーアーティストと言えるかもしれない。
今回の氏による取材の目的もどうやらそこにあったようだが、この本に収められている人たちの“アウトぶり”に比べると、私は平凡すぎてとても足元にも及ばない。
なお、この時の取材内容は、後にWEB版「美術手帖」に掲載されることとなった。
櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」 自分が自分であるために
「日本唯一のアウトサイダーキュレーター」櫛野展正氏の今後の活躍を期待したい。